魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
精霊界で出会った小さな動物たちや、オーディンに攫われて閉じ込められた城に独り住んでいた野獣王子まで――

ラスに関係のあるすべての者たちが招待状を受け取り、遠方で参加するのが困難な者はコハクが使いを出す徹底ぶり。

結婚式の日が近付くにつれコハクの多忙ぶりも凄まじくなったが、ラスは我が儘を言うことなくベビーと一緒に遊んだりして日々を過ごした。

型崩れしないようにマネキンに着せているウェディングドレスの周りをベビーを抱っこしてくるくる回って目で楽しんだり、デスやグラースと一緒にお茶を楽しんだり、穏やかな日常はラスにとても似合っていた。


「パパ遅いねー。勝手にお庭に出て遊んじゃお」


「あぷぷー」


ベビーは最近ずっと握り拳を作っている右手をちょんちょんと指で突くと水晶を見せてくれるようになった。

相変わらず強力な力を秘めた水晶は、扱い方をひとつ間違ってしまえば…国をも滅ぼす凶器となる代物だ。

コハクもラスも十分それをわかっていたが、必ずベビーを守り抜こうと誓っていた。


春の日差しが降り注ぐ庭に降りたラスは、ベビーカーを押して綺麗に整備されたやわらかい草の上を歩いた。

ここには改造済みの魔物が毎日せっせと花を植えていたり水遣りをしているので、常に鮮やかで色とりどりの花々が咲き誇っている。

屋上からは時々金色の花の香りと花弁が舞い落ちているし、ベビーを育てる環境としては最高のものだろう。


「わあ、この花綺麗。見たことないけど新しい花なのかな?」


ラスがベビーから少し目を離して腰をかがめて紫色の小さな花を見つめていると――

ベビーは、何もないはずの空中に手を伸ばし、何かを掴もうとするかのような仕草を見せた。

それに気付いたラスがベビーの元に戻ってまだ伸ばしている手を突くと、ベビーの赤い瞳は何かを追うかのように右や左に揺れていた。


「ベビー?どうしたの?」


「あきゃ。あきゃきゃきゃきゃ」


「チビどこ行ったー?お、庭に居たのか。…どした?」


「あ、コー!ベビーが何かおかしいの」


ラス欠乏症に陥ったコハクは、早速ラスを抱っこしてベビーを見下ろした。


ベビーの周囲には、半透明の花の妖精たちがベビーをからかうようにして飛び交っている。

もちろんラスにはそれは見えなかったが、どうやらベビーにははっきりと見えているらしく、小さな手で掴もうとしていた。


…この子には魔法の素質がある――

確信した瞬間だった。
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