魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
『可愛い子。私たちが見えるのかしら?』


『見えているに違いないわ、だってさっき私の羽を掴もうとしたもの。人間界で私たちの姿を見ることができるなんて、魔王を除けばどの位ぶりかしら?』


半透明の妖精たちは寄ってたかってベビーの周りを飛び交い、その度にベビーは小さな手を伸ばして掴もうとする。

もちろんコハクの目にも妖精たちの姿は見えていたが、抱っこしていたラスだけ見えていない状況で唇を尖らせていたので、ぱちんと指を鳴らすとラスにも妖精たちの姿が見えるようになった。


「わあ、可愛い妖精さんたちがいっぱい!精霊界で見たっきりだけど、やっぱり綺麗で可愛いっ」


「見ての通りベビーは妖精が見えてる。俺もガキの頃気付いた時には妖精が見えてた。チビ…こいつ、すげえ奴になるかもしれないぜ」


「どういう意味?ベビーは普通に生きてほしいの。普通じゃないってこと?」


少し心配そうな顔をしたラスの頬をぺろぺろと舐めたコハクは、ベビーの掌に乗ってやっているベルルをじっと見つめてへにゃっと笑ったベビーに笑いかけて肩を竦めた。


「わかんね。妖精を見ることができるってことは、すでに普通じゃねえってことだ。俺もベビーには普通に生きてほしいと思ってるけど、生き方はこいつに任せる。それよかチビ、娘だ!女の子!女の子を作ろう!」


「コー、私ベビーを生んだばっかだよ?もうちょっとだけゆっくりしたいよ」


「駄目ー!毎年ガキを作って子沢山に恵まれるのが俺の夢なの!よし、早速今日から子作りだ!毎日チビを……ふふふふふ」


「コーの馬鹿。ヘンタイっ」


「ヘンタイで結構!チビ…結婚式は明日なんだぜ。とうとう…やっと結婚できるんだ。今までと同じだと思うかもしんねえけど、全然違う。わかるか?」


真剣なコハクの表情にどきっとしたラスは、コハクに片腕で抱っこされ、片腕でベビーカーを押して城内へ戻ると、何度も頷いて左手薬指に嵌まっているガーネットのリングを見つめた。

これを贈られて、2年前コハクを失って、それからずっとこのリングを指から抜いたことはない。

ようやくカイの許しを得てここまでこぎつけたのだから、一生この男を手放さないために自分はもっともっとコハクを惹き付けることができるように努力しなければならないのだ。


「わかるよ…わかる。すごく、わかる…」


鼻と鼻をくっつけてくすぐり合うと、コハクの首に腕を回して抱き着いた。
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