魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスが蜂蜜をたっぷりとかけたクロワッサンを齧っていた時、外から大きな咆哮が聞こえた。

ドラちゃんを使いに出してカイたちを迎えにはやらせたが…それにしても早すぎる。

コハクがラスの頬についた蜂蜜をぺろぺろ舐めていると、今度は外から歓声が沸いた。

またもやお邪魔虫が到着したことにコハクは舌打ちをしてラスが苦しがる位にべったりくっついて肩を抱いていると、ノックの音と共に仇敵が顔を出した。


「ちょっと早すぎたかな?」


「お父様!ううん、大丈夫。お父様、隣に座ってっ。…あれ?お母様は?」


一緒に来るものだと思っていた母のソフィーの姿はなく、カイは微笑みを湛えたままコハクとは反対側のラスの隣に座ると、ベビーベッドで短い手を脚を天井に向けて伸ばしていたベビーを見て瞳を細めた。


「お母様は今とても大切な時期だから置いてきたんだよ」


「え?お母様…病気なの…?大丈夫なの?」


ラスの可愛い顔が不安に曇ったので、こんな晴れやかな日に訃報を持ち込んだのかとコハクが抗議しようと腰を上げかけた時、カイがそれを手で制してラスの耳元でこそりと囁いた。



「来年には君に弟か妹ができるよ。お母様に赤ちゃんができたんだ」


「!お父様!ほんとっ?!わあ…わあっ、嬉しい!私に弟か妹がっ?コー、どうしよう、すっごく嬉しい!」



きゃあきゃあと叫んで腕を引っ張り回すラスに呼応するように、ベビーがきゃっきゃと可愛い声を上げる。

さすがのコハクも想像しなかった報に目を丸くすると、ラスの頭を撫でくり回しながらにやりと笑った。


「へえ、そりゃ歳の離れた弟妹ができるんだな」


「私のプリンセスが王女の地位を捨てて嫁ぐことを気にしているんじゃないかと思ってね。これで我が国を担う者もできたし、私とソフィーも2人目を望んでいたから一石二鳥というものだよ。プリンセス、うちの庭で一緒に遊んだりしようね」


「うんっ!でもお父様…私の悩み…知ってたの…?」


――ラスが継ぐはずだったゴールドストーン王国と王女の地位を捨てることを、悩まないはずがない。

常に明るく悩みなどひとつもなさそうに見えるラスだが、ラスが幼い頃から多忙だったとは言え、考えていることなど全てお見通しだ。

だからこそ、当時ラスの影だったコハクとの仲にも危機感を感じていたのだが――


「私は君のことならなんでもお見通しだよ。さあ、私は朗報を運んで来たのだから、今度は君が私を喜ばせてくれる番だ。ソフィーには明日会えるからね」


張り切って笑顔満面で頷いたラスの肩を抱いたカイは、唇を尖らせているコハクに不敵な笑みを浮かべて知らん顔を決め込んだ。
< 685 / 728 >

この作品をシェア

pagetop