魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
“誰かを助けたい”と思ったのは、これが2度目だ。


無表情で無愛想で無口な自分に優しく接してくれたラスは…出産の際に命を落とす予定だった。

死神の書にラスの名と子供の名が記載されてあるのを見た瞬間、“助けよう”と思ったあの瞬間に芽生えたはじめての感情――きっと自分に足りなかったものだ。


「……俺……手が……」


ベビーを抱っこした自分自身の手…

本来は骨だけの手で、それが死神の証。

だが今の自分の手には肉がつき、真っ白な手が本当に自分の手なのかどうか確かめるように何度も指をわきわきさせて確認する。


鏡を見るという習慣のないデスは、手だけではなく髪や瞳の色も純白に変化していることに気付いていなかった。

だが抱っこしているベビーは、何度もきゃっきゃと声を上げて瞬きもせずにずっとデスに笑顔を向けていた。


「………手が…俺の手…」


忌むべき存在として疎まれて、何故自分にこんな運命を背負わせたのかと神を…創造神を呪ったこともある。

だが創造神に会ったあの時…“それには意味がある”と諭され、いつかこんな手になることを願ってきた。

その手が、今…


「あぶ、あばばば」


「………俺……頑張る…」


言葉にならない何かをずっと言い続けているベビーの頭を撫でてやると、いつもしているように人差し指をちゅうちゅうと吸い始めた。

骨ではないデスの指は驚くほど長くて白く、あまり骨の時と変わっていないように見えたが、それでもデスにとってはいつかこんな手に…と願い続けてきた手だ。

だが瞬きをした瞬間、また骨の手に戻ってしまった。


「………戻った……。…俺…まだ…足りない……。…感情が……気持ちが……」


何にも無関心なこの感情を揺さぶるのは、魔王とラス。

2人の傍に居て、心から何かを願い、共に暮らしていけばいつか…いつかきっと…


「……行こう」


髪も瞳も黒に戻り、いつもの姿になったデスは、ベビーを抱っこしてコハクたちの後を追いかける。

外からは歓声が沸き、まるで地鳴りのように城の周囲に渦巻く。


コハクはあんなに綺麗で可愛い花嫁を手に入れたのだから、当然のこととは言えるが、早くラスに会ってあのぷにぷにの頬にキスをしたい。

きっとコハクに怒られるだろうが、気にしない。


「……魔王…怒らせると……面白い…」


少しずつ、少しずつ…何かが変わってゆく。
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