魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
正面の扉とは別に、中にももう1つ扉がある。

コハクはその奥へと行き、ラスはカイと共に正面の扉を開けて中に入った後、大きく深呼吸をして、カイを見上げた。

カイからはレースのせいでラスの表情はよく見えなかったが、確かに大きな瞳が潤んでいるように見えた。


「お父様…ずっとコーと話してたの。お父様と一緒にバージンロードを歩けたらいいな、って…」


「もちろん私もそう思っていたよ。相手が魔王なのは気に食わないけれど、君が選んだ男なのだから、応援するよ。さあ、落ち着いたら声をかけて。ずっと隣に居てあげるから」


魔王を倒した勇者カイ――

コハクが“魔王”であることはきっと誰も知らないだろうが、コハクにかけられた呪いのせいでラスを奪われる羽目になったカイは、心の底からラスの幸せだけを願っていた。

子供まで生まれたからには、コハクはきっと生涯…永遠にラスを離さないだろう。

ラスにその魅力は十分あるし、コハクでなくとも、そう思うに違いない。

今目の前のラスは、本当にとても美しいから。


「ねえお父様、お願いがあるの」


「うん、なんだい?」


ラスに腕を引っ張られて身体を傾けると、ラスがこそこそと耳元で耳打ちをした。

その内容にカイの青い瞳がみるみる驚きに見開かれた後、口元に手をあててくすくすと笑った。


「それは…私が魔王に殺されてしまうんじゃないかな?」


「私が庇ってあげるから大丈夫。ね、してくれる?いいでしょ?お願い聞いてくれるでしょ?」


上目遣いで可愛くおねだりをされて断れるわけもなく、カイはラスの願いを叶えるべく、まだ笑いながらも頷いた。

そしてコハクは祭壇に立つ神父の前に立っていた。

表情は珍しくもきりっとしていて、ぎゅうぎゅうに詰めかけた人々は、凛とした佇まいのコハクに見惚れていた。

だがすぐ傍にはコハクに野次を飛ばす者が続出していた。


「魔王め、ラスを幸せにできなかったら、すぐ攫いに来るからな」


「うるせえよ野獣野郎。てめえ俺が離れてた間チビに変なことしてねえだろうな?後で問い質してとっちめてやるからな」


「またラスと遊びたいから一緒に精霊界に来てください。また僕の背中に乗ってほしいな」


「お前たちには世話になったな。おい、あんま教会の中飛び回るなよ、大人しくしてろ」


「影、何度も言うようだけど、ラスが泣くようなことがあったら…」


「おめえはチビの心配しなくていいの!あんま干渉してきやがったらお前の王国を粉々にしてやるぞ」


最前列に座っているリロイたちと小声でぼそぼそと諍いをしていると――扉が重厚な音を立てて開く音がした。


コハクが振り返る。

そして…絶句した。
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