魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
誓いのキスだったはずなのに、まるで大勢の人々にラブシーンを見られたような気がしてならないラスは、コハクのキスでふにゃふにゃになってしまっていた。

百戦錬磨のこの男のキスはとろけるように甘く、すべてにおいてコツを知っていて、自分がこうなることも恐らく予測済みだっただろう。

教会を出た後もいつものように抱っこされたまま、まだ短い息を吐いて顔を赤くしていると、また耳元でこそこそと低い声が囁いた。


「もうギブか?どうしようっかなー、城に戻って続きがしたくなったなー」


「だ、駄目!あの、あのっ、ベビーにお乳もあげなきゃいけないし、私もうちょっとウェディングドレス着てたいし…」


「わかってるって。よーし、俺の腕が痺れるまで街を練り歩いて祝福されるんだ!」


…赤い瞳を見て“不気味だ”という声も聞こえた。

赤は不吉の象徴で、そう言われ続けて生きてたコハクとしては、今となっては傷つくこともないが――そう揶揄される度に、陰口を叩く者を八つ裂きにしてきたものだ。

親から捨てられる原因ともなった忌むべき瞳を潰してやろうかと何度も考えたことがあるが…今はそうしなくてよかったと思っている。


ラスがこの赤い瞳をも、愛してくれるから――


「コー、ベビーを抱っこしたいな。ベビーもみんなにお祝いしてもらうの」


「ん、わかった。おいデス、ちょっとこっち来い」


少し後ろを歩いていたデスに声をかけると、ベビーを抱っこしているために両腕が塞がって日傘を差すことができずに眩しそうな顔をしていたデスが小走りに駆け寄り、指を咥えてじっとしていたベビーをコハクに差し出した。

両親の存在にすぐ気付いたベビーは短い手を伸ばし、父親譲りの赤い瞳を輝かせると、ラスの腕に抱かれてきゃっきゃと声を上げる。

早速ラスの胸をまさぐるベビーの頭を撫でたラスは頬にキスをして、皆の前でコハクの頬にもちゅっとキスをした。


「コー、行こ。ベビーが泣いたら終わり。泣くまではずっと街を歩いてね。だってこのウェディングドレス可愛いからみんなに見てもらいたくて…」


「可愛いのはウェディングドレスじゃなくってチビ!見ろよみんなの顔!あー、生きててよかったー!」


本当に生きていてよかった、と思えた。

これからは愛する女と子供たちと一緒に生きてゆける。


ずっと、ずっと――

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