魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスを抱っこして悠々と街を歩くコハクの周りには常に人だかりができていて近寄れない状態だった。

また改造済みの魔物たちがガードしなくても人々が一定の距離を保っているのは、コハクとラスが近寄りがたい雰囲気を持っているからだ。

こんなにも完璧な美男美女を見たことのない人々は、とにかく2人を近くで見ていたくて、街を練り歩く姿を追いかけ、ラスが腕に抱いている小さな赤ちゃんを見てでれでれしていた。


「わ、可愛い欠伸。コー、ベビーは全然ぐずらないね。このままだと街の中を一周しちゃうかも」


「こいつ度胸あるよな。周りはこんなに騒々しいのに泣き声ひとつも上げねえし。ベビー、ママは綺麗だろ?もうちょっとしたら城に戻ろうな」


「あぶー」


華やかな笑顔で笑ったラスの額にキスをしたコハクは、居住区から繁華街までまさにグリーンリバーを一周して、城の前に着いた。

帰りが遅いので心配したリロイやカイたちが城に入らず待ってくれていたので、門の周りには彼らの姿を見ようとまた人々が殺到する。

カイは魔王を倒した勇者で、リロイは魔物掃討を行って絶対数を減らし、クリスタルパレス王国を興したドラゴンテイマー。

実際はコハクが王国を興したのだが、表舞台に立ちたがらないコハクは“出資者”という立場でだけ名を明かし、他を全てリロイに譲った。

どちらにしろ民衆から言わせれば彼らは2人共勇者で、ラスが門を潜ると代わる代わるラスを抱きしめたり頭を撫でたり、眼福ものの光景でまたでれでれさせる。


「お帰りラス。影は本当に街を一周しちゃったんだね」


「うん、そうなの。歩きたかったんだけど駄目だって怒られちゃった。でもウェディングドレスが汚れなくて良かった。ねえリロイ、今日はパーティーに参加してくれるでしょ?」


「そのつもりで来たよ。ああやばい、影が睨んでるから先に城に入ってるね。ラス…本当におめでとう」


兄のように慕っているリロイに優しく微笑まれるとついぽうっとなってしまうラスの後頭部に軽く手刀を振り下ろしたコハクは、ベビーをデスに任せてラスの手を握ると、城の中へと入った。

今夜はパーティーが行われて、その後…ラスに不死の魔法をかける。


失敗するイメージはもう、ない。

隣でしきりに見上げてきてはにこにこしているラスに顔を寄せてキスをすると、“絶対やれる”と強く思えた。
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