魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「コー、一緒に踊ってくれるのっ?」


「ああ、踊ろうぜ。座ってるばっかじゃつまんねえだろ?目ぇ回すなよー」


手を取られて中央に進むと、コハクがぱちんと指を鳴らした。

実は部屋の隅に控えていた改造済みの魔物で構成された楽団が合図と共に演奏を始めると、ラスは驚くほどスマートなステップを踏みながら笑い声を上げていた。

ラスとて元は強国ゴールドストーン王国の第一継承者だった王女。

宮廷流儀は幼い頃から叩き込まれていたので、ダンスはお手の物なのだが…コハクは流儀に囚われないステップを踏むので、ラスは何度もコハクの脚を踏みつけていた。


「コー、楽しいけど脚踏んじゃうっ」


「俺の脚の上に乗ればいいじゃん。靴なんか脱いじまえよ」


言われた通りにクリスタル製のヒールを脱いで素足になったラスは、コハクの靴の上に乗ると、それでも身長差のあるコハクを見上げてコハクの腰に抱き着いた。


「楽しいね、今日はパーティーなんだからみんなで踊ろうよっ」


それまで網膜に焼き付けるかの如く食い入るように2人を見つめていた人々は、リロイとティアラがラスたちの隣に進んで一緒に踊り始めたのをきっかけに、次々と中央に進む。

軽快な音楽に変わり、ラスを脚の上に乗せたコハクはくるくる回ったりラスを頭上まで抱え上げて歓声を上げさせたりしてラスといちゃいちゃしている姿を皆に知らしめながら、時々我慢できなくなって首筋にキスをしたりしてラスに頭を叩かれる。

パーティーには大勢の美女も参加していたのだが、コハクは彼女たちに視線を遣ることもなく、ラスの輝かんばかりの笑顔に夢中になっていた。


「ねえコー、ベビーはお腹空いてないかな…。そろそろお乳をあげないと泣いちゃってデスが困っちゃうかも」


「ああ、じゃあそろそろ俺たちは退席すっか。カイ、後は頼んだぞ。適当に楽しめよ」


「魔王、ちょっとこっちに来い」


ラスを抱っこしてさっさと引き上げようとしていると、カイから声をかけられて仕方なく1度ラスを下ろしたコハクの耳元でカイがぼそぼそと囁いた。


「今夜…ラスに不死の魔法をかけるんだな?…失敗したらどうする」


「失敗なんかしねえし。お前俺を誰だと思ってるんだよ。朝にはチビは俺と同じになってる。永遠に美しいまま。永遠に可愛いチビにな」


もう諦めのついているカイは、ラスに見えないようにコハクの鳩尾に結構激しめなパンチをくれて声を詰まらせた。

そしてラスの頬にキスをして、リロイたちと共にパーティーに戻った。
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