ボクは桜、キミは唄う
首をかしげながらも図書室に向かう。

けど、図書室の扉を開けると、ナオちゃんがなぜ私を止めたのか、その理由がすぐにわかった。

大きなテーブルに一人、鞄から参考書を取り出そうとしている柚木君がそこにいたんだ。

そして、ガラガラッという扉の音に気づいてか、顔を上げこっちを見ていた。

「ご、ごめん!なさい!」

私は慌てて図書室を出て、扉を閉めてしまった。

資料返しに来ただけだから、別に謝ったり隠れたりする必要なんかないのに。

柚木君を目の前にすると、どうしても動揺してしまう。

そのまま動けずに迷っていると、中からコンコンと扉をノックする音が聞こえた。

振り返れば、小窓から顔を覗かせて笑ってる柚木君。

そして、静かに扉を開き

「もう帰るから、図書室使っていいよ」

なんて言う。

でも……。

放課後になったばっかりの今。

テーブルに広げられた勉強道具を見ると、これからガッツリ勉強するつもりだったことが窺える。

「じ、邪魔じゃなければ、私も一緒に勉強してもいい?」

断られるかな。迷惑かな。

怖くて目を見れない。

けど。

しばらくの間をあけて、

「──邪魔なわけないじゃん」

柚木君は優しく答えてくれた。

顔を上げると、また背が伸びた柚木君は前よりも遠くから私を見下ろして、微笑んでいた。
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