約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く

「花桜……。
 
 お前……何時の間にその剣を……」




お祖父ちゃんが
呟くように声を漏らす。




……どうしよう……。



幾らお祖父ちゃんでも、
幕末の時代で習いました……っとは言えないよね……。




質問の返答に詰まっている時、
信じられない言葉が降り注いだ。





「花桜……逢えたんだね」






しみじみと呟いたお祖父ちゃんの隣には、
やっぱり張りつめた表情のお祖母ちゃんが近づいてくる。



なんだ?っと言わんばかりに敬里は、
私と祖父母の顔を交互に見つめる。





「敬介さん……」


お祖母ちゃんは、お祖父ちゃんの名前を紡ぐ。




敬介……。



そうだ……お祖父ちゃんの名前は、
山波敬介(やまなみ けいすけ)。


山波?

山南……。



もしかして……我が家のご先祖様は……。




えっ……。

もう頭の中はぐちゃぐちゃ。
どうして?

だけど……。




お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは、
お互いの顔を見合わせてゆっくりと私に向き直った。



「花桜……、よく聞きなさい」

「……はい……」



道場に沈黙が広がる。



「その家宝の刀の名は、赤心沖影。

 幕末の時代、壬生浪士組……新選組として
 その名を知られた、山南敬助の愛刀。

 赤心沖光と対をなす剣」



赤心沖光……。



対をなす刀だから、私はあの時……
山南さんの刀が気になったんだ。




「先ほどの花桜の刀運び。

 それは、代々山波家に受け継がれる
 巻物の剣さばきそのものだった。

 私には辿りつくことが出来なんだその道を、
 ……花桜は何故、知っている?」




もう……隠せないよ。



口の中に広がる唾を飲み込んで、
呼吸を整えると覚悟を決めて今、
私の身に起きていたことを
全てお祖父ちゃんと、お祖母ちゃん、そして敬里に伝えた。



幕末の世界へとんだこと。


ご先祖様でもある、
山南さんと出逢ったこと。


あの場所で、
直々に稽古をつけて貰ったこと。 



そして……親友を守るために、
人を初めて、殺したこと……。




紡ぐ言葉の全てを、
疑いの眼差しを投げ返す敬里と違って、
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは、
とても冷静だった。




「そうか……。
 花桜は今も旅の途中なのだな」




旅の途中……。
そうなのかも知れない。



「花桜、少し手合せしてくれぬか?
 ご先祖様に教えて貰ったその剣で」



お祖父ちゃんは、ゆっくりと立ち上がると
自らも奥に飾っていたもう一本の銀色の刃が美しい剣を手にする。


その剣を手にして、ゆっくりと抜刀の構えで
私に向き合うと、私もまたお祖父ちゃんに剣の切っ先を向けて
ゆっくりと構えた。


お互いゆっくりと
相手の行動を読みながら、にじり合う。



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