約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く



緊迫が道場内を包み込む。





どちらかが仕掛けないと……。



そう思って、私が先に踏み込むと、
祖父の刀が流れるように私の刀にぶつかる。

金属がぶつかり合う音が
神聖な道場に響き渡る。


その打ち合いは……やがて祖父の手にした剣を弾き飛ばすことで
勝負が終わった。



肩で息をする祖父の前、
いつものように呼吸を整えながら
私も正座で向き合う。





そしてゆっくりと頭を垂れた。







「敬介さん……」

「あぁ。
 そうだな……」





再び、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは
二人だけにしかわからないアイコンタクトを取ると私に向き直る。


お祖母ちゃんが手にしているのは、
古い合わせ鏡。


ゆっくりと目の前に差し出されたものに触れて
ゆっくりとその鏡を開く。


鏡の面が歪んでゆっくりと映し出される景色。



それは……懐かしいあの時代。



「これって……」




驚いて視線を祖父母に向ける。



「敬助さまの奥方、明里【あけさと】さまの大切な合わせ鏡と
 伝えられている、山波家の家宝の一つ。
 
 いつの頃か……遠い記憶を映し出すようになりました」

「花桜が居なくなった後、
 
 世界は…… 花桜が居ない状態で回り始めた。

花桜はちゃんとこうして居るのにな。
 その花桜を黙って写しだしてくれたのが、
 この合わせ鏡」

「花桜……その鏡に手を当てて、
 念じなさい。

 貴女が知りたい世界を……」




その言葉に誘われるように、
ゆっくりと鏡の面に手を触れて、
心の中で思い描く。


あの場所で出逢った
大切な人たちのことを。


歪んだ後、次々と鏡が映し出すビジョンは、
山崎さんが今も私を探してくれていること。

瑠花は今も芹沢さんとお梅さんのお墓詣りを続けながら
何故か、沖田さんと一緒に居ることが多くなってること。


舞は……屯所内の雑務を受け押しながら、
毎日、斉藤さんに手伝って貰って
今日の町中を出歩いている……こと。




映し出される全てに、
懐かしさと愛しさを覚える。




そして……流れる映像は気になる時を告げる。





山南さんが……怪我してる?




床に臥せる山南を映しだした後、
鏡はやがて、道場の中を映し出した。





「私……」



沖影を手にしてゆっくりと立ち上がると、
祖父の静かな声が響く。



「行くのじゃな。
 花桜」



その問いにゆっくりと、頷きを返した時
雷が轟きはじめ、雨を伴いはじめる。
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