約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く



広間に顔を出して、皆と一緒に
食事をとろうともしない。


毎日、つけてくれていた朝稽古。



熱が下がったら、
またつけてくれると思ってたのに 
そんな兆しは感じられない。




目の前に置かれた朝餉に、
黙って箸を少しだけつける。




負傷した腕が思い通りに動かなくて
食べづらいの?




そんな山南さんを気にしながら、
自分の朝ご飯に箸を進めていくと、
突然、背後から……おむすびを掴みとる手。




慌てて後ろを振り向くと、
悪戯が成功して笑みを浮かべる山崎さん。




「山崎さん」

「なんや、花桜ちゃん。
 もっと感動の再会期待しとったのに」


なんて拗ねるようにいいながら、
おむすびを頬張っていく。


「花桜ちゃん、
 そのお漬物ももろてええか?」


なんていつもの調子で、
私の膳から次から次へと摘み食い。


口の中に詰め込んだものを
飲み込んだのか、
仕事モードの山崎さんへと戻った。



「あぁうまかった。
 ご馳走さん。

 山南さん、ちょっと失礼しますね」



そう言うと何も変わらない調子で、
山南さんの傷口を確認していく。


山崎さんは山南さんの傷口の手当だけ終えると
すぐに仕事へと戻っていった。



部屋の襖を開いて、
外の空気を室内に取り込む。




「山南さん、外のお天気が気持ちいいですよ。
 少し、散歩しませんか?」



膳を部屋の片隅に置いて、
庭を眺めながら声をかける。



「私は結構ですよ。
 
 山波くん、君もいつも私に付き合う必要はありませんよ。
 君もやりたいこと、やるべきことは多いでしょう。
 
 私に付き合うことはありませんよ」




穏やかな口調ながら、
全てを拒絶していくように紡がれる言葉。


そんな言葉を聞いて、
離れろって言う方がおかしいでしょ。




「私は好きで居るだけです。
 朝餉、片付けてきますね」


わざと大きい声で告げると、
涙が毀れそうになる目を必死に
こらえて微笑んだ。


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