約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く


月の世界には総司の病気を治せる治療薬が発見されてる。
労咳は……肺結核は治らない病気ではないから。


総司を連れて、花桜と舞と一緒に月の世界に戻りたい。

そんな私の願い。


その為には、今出来る事をやり遂げたい。

私にとって出来る事なんて限られてるけど、
それでも……鴨ちゃんが想いを託した、
この人たちの為に……出来る事を精一杯しておきたい。


そんな私を鴨ちゃんは、
空から見守ってくれるかもしれない。


そんな風に思えるから。



「すいません。もう一つ、お盆とってきますね。
 おむすびは、まだありますから」



空っぽになったお盆に気が付いて慌てて炊事場に駆け込む。


そして次のお盆を手にして炊事場から飛び出した時、
舞が姿を見せる。




「瑠花……私も貰っていい?
 お腹、すいちゃった」



そう言うと、舞はおむすびを一つ手に取って
その場でパクリと口に頬張る。


「うん……美味しい……。

 瑠花、花桜をお願いね。
 私……決めたよ。

 瑠花が言ったみたいに、私……義兄を見届けてくる。

 私はそこに行かなきゃいけない。
 だから教えて欲しいの。

 歴史上、義兄が最期を迎えた場所を」


真剣な眼差しで真っ直ぐに私を捉えて告げる舞の腰元には、
何時の間に手に入れたのはわからない脇差し。



「舞……それっ」

「うん。
 これは人を殺すもの。

 私の身を守るもの。

 知ってる……花桜みたいにはならない。
 だから教えて……私の願いを叶えたいから」


真っ直ぐな舞の眼差しを見ている間も私の脳裏には、
ドラマで何度も見て来た久坂玄瑞のラストシーンが回想される。



「鷹司邸」

「鷹司邸?」

「うん。鷹司邸」

「有難う……瑠花」


舞はそう言うと手に持っていたおむすびを
全て口の中に頬張って、私が手にしていたお盆を横から奪っていく。

モグモグと口を動かして呑み込むと、
にっこりと笑い返す。



「戦支度しなきゃね。
 ほらっ、これは私が持つからお茶持ってきて」


舞に促されるままに、炊事場に駆け込んで両手に一つずつ、
やかんをぶら下げて舞の元へと駆け寄る。


二人肩を並べて再び隊士たちが待つ庭へ。


舞と二人、隊士たちに求められるまま
おむすびを配り、お茶を配り……
この世界に置いての穏やかな時間が過ぎていく。


羽織を纏った隊士たちの声が響く。




「有難う……瑠花。
 沖田さんと倖せにね。

 後……花桜に宜しく」


去り際にそんな言葉を残して、
舞は隊士たちの間に紛れて姿を消していく。

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