約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く


「とりあえず、総司道案内お願い。
 堺町御門まで」

「瑠花……、もしかして場所知らないままに
 行動しようとしてた?」

「まぁ、総司が手伝ってくれなかったらくれなかったで、
 何とかなったかも知れないけど、
 最短では辿りつけないかもねしれないよね、舞」


そうやって笑いかける瑠花に、
思わず私も、反射的に笑いかける。


「二人とも、仕方ないですね。
 なら、ついてきてください。

 久坂玄瑞に会うために、僕が手伝っているなんて
 正直、胸中は複雑ですけど。

 加賀、君も一くんから譲られた太刀をしっかりと
 何時でも抜けるように。

 瑠花、君は僕の傍から決して離れない。
 いいですね」


そう言いながら、細い路地を突っ切っていく。



途中、すでに始まった戦から退けてきたのか
甲冑に身を包んだ長州兵たちが次々と逃げ込んでくる。



逃げ込んできた兵士たちが、沖田さんの新選組の羽織に気がついて
次々と最後の力を振り絞るかのように切りかかってくる。 


そしてその刃は、沖田さんだけじゃなく
行動を共にする私たちにまで襲い掛かってくる。

流れるような太刀筋で、
瑠花を守りながら剣を振るいつづける沖田さん。



「加賀、君も目的を叶えるために
 刀を振るわないと、その願いの前に君が倒れることになるよ」


ザッシュ、ザッシュと刀と刀がぶつかる音、風を切り裂く音。

血が噴き出る音。

全てが映画のワンシーンのように過ぎていく
この時間も……決して、夢ではないこと。



「おいっ、新選組だ。
 早く、久坂さんに知らせろ」



耳に届いたのは義兄の名前。




「待って、義兄に会わせて。

 私は加賀舞。
 舞って言ってくれたらわかるから。

 義兄に会わせて。

 瑠花、沖田さんを止めて。
 私は戦いに来たんじゃない。

 ただ会いに来たの」



響き渡る私の声に周囲がざわつき始める。





「何をしている。
 
 禁門の来島さんが薩摩に敗れた。
 我らに無駄な時間はない。

 我らの目的は戦ではない。
 帝に嘆願したいだけだ。

 我らは会津と薩摩の策略によってはめられた。

 長州に朝敵になる意思はないのだと
 御上に一言、申し伝えることが出来ればそれでいい。

 無駄な血を流すな」




そう周囲に言い放ちながら、自らも負傷しているのか、
手を庇うようにしながら駆けつけてくる声。




「久坂さん。
 この者が……」



未だ刀の切っ先を向けたまま
私のことを義兄に話す長州の兵士。





「新選組……。
 舞、どうして君がここに居る」




いつも優しい義兄の声が
今日は苛立ってるように聞こえる。



「義兄に会いたかったから……」



ただ……これから起こる歴史を思い出しながら、
涙が止まらないままに静かに告げる。


この声が……私が聴ける義兄の最期の声になるから。



「新選組の……」

「一番隊組長、沖田総司」



ゆっくりと名前を名乗る沖田さん発した声から
周囲の空気が一気に張りつめる。

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