約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く


「はいっ。それまで」



瑠花の声がこだました。


二人、その場に正座してゆっくりと互いにお辞儀しあう。
そのまま再び、土の上に大の字で転がった。


「あぁ、気持ちよかったー。
 久しぶりに汗かいたよー。

 それに何か懐かしかったし、舞が強くなった気がする。

 おかしいなー、前は舞に一本取られるなんて考えられなかったのに」


なんて懐かしく思いながら口にする。


一撃一撃の重心が定まって来たのか、
舞から繰り出される打ち込みは重くて手が何度も痺れかけるほどに。



「そんなことないよ。
 花桜から一本とれたのは、偶然偶然。

 だけど……これで決めた」


そう言うと舞は、ゆっくりと腹筋を使って体を起こして土を手ではらった。


「舞……?」

「花桜、瑠花聞いて。
 実は願掛けしてたの。

 さっきの打ち込み、花桜から一本取れたら私が今、
 思ってること実行しようって」

「「舞が思ってること?」」


瑠花と私の声が同時に重なるように
同じ言葉を紡いで、私たちはお互いの顔を見合わせた。


「私、晋兄に会いに行こうと思う」


舞は次の瞬間、ゆっくりとそう切り出した。


「ちょっちょっと、舞。晋兄って高杉晋作よね。

 舞、高杉晋作に会いに行くって言うの?
 
 えっ?ちょっと待って。
 禁門の変が終わった頃って高杉何処に居るって言われてた?」


瑠花はパニックになりつつも、
何かを考えるように口を閉ざす。


「舞、本気なの?」


私も思わず聞き返す。


「花桜、瑠花ごめん。

 だけど私、義兄の最期も晋兄に私の言葉で伝えたい。
 ここに居て、花桜や瑠花と過ごす時間も楽しいよ。

 だけど私も強くならなきゃいけない。

 それに……義兄を見届けたみたいに晋兄も見届けたいよ。
 大切な人だから」


そうやって紡いだ舞にどう声をかけていいのか
私自身もわからなかった。



「舞、本気で言ってるのよね。
 確か高杉晋作は脱藩の罪で投獄されてる期間があったはずなんだ。

 でも……何時だったかな。
 藩の要請で出てくるんだよ。

 伊藤博文が通訳して、彦島を守る出来事があったはずなんだけどもう終わってるのかな?
 まだなのかな?

 うーん、もう少しで何年だったか思い出しそうなのに……」


瑠花はあっちの世界で詰め込んだ知識を辿りながら考え込む。


「瑠花、有難う。

 大丈夫だよ。
 必ずしも、同じ歴史とは限らないだろうし。

 一旦、私……雅さんのところに行こうと思うの」

「雅さん?」

「うん。
 晋兄の奥さんのところ」

「一人旅なんて心配だよ。
 瑠花、私たちも舞について行こうよ」


私も瑠花を見て、咄嗟に言いだす。


計画性も何もない、ただ勢いで飛び出した言葉。
だけど舞は、静かに首を横に振った。



「花桜と瑠花は新選組の人たちと一緒に居て。
 私も晋兄を見届けたら、ちゃんと追いかけるから。

 晋兄のことは……私だけの問題だから」


舞はそう言うと私たち二人を庭に残して一人、
何処かへ姿を消してしまう。

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