愛を教えて
忍の言いたいことはよくわかっていた。

万一、子供ができなければ……。

卓巳は一般人ではない。藤原グループの後継者なのだ。妻に子供ができなければ、愛人を作るか、万里子と別れる道を選ぶだろう。

どちらにしても、万里子は傷つくことになる。


「わかっています。それでもいいの。卓巳さんは私を妻に、と。結婚は諦めていたけど……少しの間だけでも、私は彼の妻でいたいの!」


万里子は忍の手を強く握り叫んだ。

すると、忍も力いっぱい握り返した。


「お嬢様……ようございました。身体もそうですが、わたくしはお嬢様の心の傷を案じておりました。それが……愛する殿方に望まれてお嫁になんて! 大丈夫ですよ、きっとよくなっておられます。お優しいお嬢様のために、神様がとびっきりの幸せを用意してくださってますよ」


はらはらと涙をこぼしながら「本当によかった」を連呼する。

万里子は忍に申し訳ないと思いつつ……愛されて嫁ぐのだと信じてくれたことに、救いを感じていた。


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