愛を教えて
リビングのソファセットに、卓巳は万里子の父、隆太郎と向かい合って座った。

そこには玄関を凌ぐほどの緊張感が漂っている。

父親にすれば……卓巳は娘を朝帰りさせたろくでもない男だ。できる限り、威厳を持って挑みたいところであろう。

だが、その相手は、桁違いに大きな会社の社長。どこまで怒りをぶつけていいものか、困惑している様子だった。


一方、卓巳のほうも甚だ気まずい。

『僕が話す』と宣言したものの、やはり、万里子にはそばにいて欲しい。にもかかわらず、帰宅するなり部屋の戻ってしまい、なかなか下りて来ないのだ。

最悪な空気の中、男ふたりは無言を貫き、万里子を待ちわびた。



「お待たせして、ごめんなさい」


下りて来た万里子は当たり前のように卓巳の隣に腰かける。

まさかその行動が、父親の神経を逆撫ですることになるとは思いもせずに。


「夜の十時までにはお送りする予定だったんですが。こんな時間になってしまい、本当に申し訳ありませんでした」


卓巳は謝罪を口にすると深々と頭を下げた。

万里子も同じように頭を下げ、


「お父様ごめんなさい。私は……」

「ここ最近、外出が増え、帰宅が遅くなっていることには気づいていた。だがまさか……」


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