愛を教えて
だが、目の前の男性が油断のならない相手だとさんざん聞かされている。
彼の手を握り返していいのかどうか……しかし、万里子自身が何かされたという訳ではなかった。
それを考えれば、初対面で握手を断るのは失礼なことだろう。

万里子は意を決して、控えめに手を差し出した。

そのとき、太一郎はふいに彼女の手首を掴んだ!


突然のことで万里子は声が出ない。
彼女の三倍はありそうな太い指が、ガッチリと手首に巻きついているのだ。

次の瞬間、万里子は強い力で引っ張られ、太一郎の体に引き寄せられた。

一瞬にして全身が凍りつく。

彼女の脳裏に、馬乗りになられて服を裂かれた、四年前の恐怖が蘇った。


「そう、硬くなるなよ。挨拶しようぜ」


言うなり、太一郎は顔を近づけてきた。


万里子にキスの経験はない。
彼女をレイプした男たちは、面倒なことはすべて省いた。必要な場所は下半身だけと言わんばかりに。

不幸中の幸いというべきか、唇だけは誰にも許してはいなかった。


太一郎の指は手錠のように万里子の細い手首を締め付ける。それが、女の力では決してほどけないことを万里子は知っていた。


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