愛を教えて
一瞬で言葉を失う尚子に代わり、口を開いたのは皐月だった。


「幸か不幸か、まだ正式な妻ではありませんね。実際の関係はともかく、それだけで妻として扱わねばならないなら、先代や太一郎さんには、軽く二桁の妻が存在してしまいます」


それは皐月の、まだ結婚を認めた訳ではない、という意思表示だった。私欲や私怨で吼える尚子とは重みの違う言葉だ。

しかし、今日の卓巳は、これしきで引くことはなかった。


「私が妻と呼ぶ女性は生涯ひとりだけです。先代や太一郎くんのお相手と、万里子を同列に扱わないでいただきたい」


卓巳は皐月を見据えて、宣戦布告のように言い放った。




そんな卓巳の横顔が、万里子には眩しかった。

寝室での告白を聞き、卓巳が万里子を通して見ていたのが母親だと知る。そして、中絶経験がある女そのものに嫌悪感を抱いていることも。

渋江邸のパーティで言っていた、卓巳が過ちを犯すかもしれない“清純で天使のような娘”。
彼が心から愛し、本当の妻にしたいのは、そう言った女性なのだろう。

そしてそれは、万里子がどんなに努力しても辿り着けない場所に存在している。


< 210 / 927 >

この作品をシェア

pagetop