愛を教えて

(2)幸せの味

「ベッドは少々狭いですが、ひと晩くらいなら構いませんよね」


忍は嬉々としてベッドメイクを済ませ、卓巳のためにパジャマを用意している。

そこは二階にある万里子の部屋だ。
クローゼットは作りつけで、南側にはバルコニーに面した大きな窓がある。ベッドは北側の壁に寄せられ、頭は東向きだ。
東側にも窓がひとつあり、窓の横に昔ながらの学習机と本棚が置かれていた。


「ねえ、忍。やっぱり、卓巳さんは隣の客間にお通ししましょうよ。ここでは狭いし、それに同室なんて……。お父様は酔ってらっしゃるのよ。目を覚ましたら、お怒りになるかもしれないわ」


父に比べれば、卓巳は酔っているようには見えない。
しかし、少量でもアルコールの入った卓巳に車の運転はさせられない。
藤原家から迎えを呼ぶことは簡単だったが、父が卓巳に『泊まっていけばいい』と言い始めた。


「まあ、万里子様ったら。こんなにご入籍を急がれたのは、片時も離れたくないからだろう、と。旦那様のお心遣いじゃありませんか。客間よりこちらのほうが旦那様のお部屋から遠いですし……。すでにご夫婦であられますのに、遠慮なさらないでくださいませ」


忍は、心得ております、といった風情で万里子に笑いかける。


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