愛を教えて
だが、大きなベッドが二台あるオーナーズ・スイートとは訳が違う。
万里子のベッドはセミダブル。本当の夫婦であるなら、抱き合って眠れば済むことかもしれないが。

この状況で、客用の布団を持ち出しては、忍が不審に思うだろう。


(どうしたらいいの?)


思案する万里子の頭上に、卓巳の声が響いた。 


「ありがとう、忍さん。ベッドは充分な広さですよ。お義父さんに、お心遣い感謝しますとお伝えください」

「卓巳さん!」


表向きは、何度となく夜を共にした仲である。
とはいえ、実際の関係はプラトニックそのものだ。

卓巳と泊まるホテルのオーナーズ・スイートは、千早家のリビング、ダイニング、キッチンを合わせたくらい広い。

藤原邸にしても同じだ。お城のように大きなお邸である。
卓巳の寝室は、ダブルベッドを二台置いても充分に余裕があった。

それに比べれば万里子の私室など、卓巳の部屋のクローゼットよりまし、といった程度だ。


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