愛を教えて
その場に残された万里子たちは、唖然として卓巳を見送った。


「どうしたんだ! 万里子、卓巳くんと喧嘩でもしたのか?」

「いいえ、まさか」


卓巳が万里子を父に預けたのは、ほんの三十分ほど前のこと。
それから今まで、万里子はずっと父と一緒にいた。笑顔で離れたふたりが、どこで喧嘩をするというのだろう。


「万里子、お前は俊介くんのことを話したと言っていたな。いったい、なんと話したんだ!」

「そ、それは……初等科のときに家庭科で作ったクッキーを持って帰り、お父様と俊介さんに半分ずつ差し上げたって。そういえば、そのお話をしたときも少し機嫌が悪くなったような。でも、十年以上昔のことよ」


そこに忍が口を挟んだ。


「いけませんよ、お嬢様。殿方はいくつになっても、些細な過去に腹を立てたり、ヤキモチを妬いたりするやっかいな生き物なんです」

「でも、小学生のころの話よ……そんな」


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