愛を教えて
卓巳が矛盾の中に沈むころ、万里子はひたすら自戒の念に囚われていた。

原因は卓巳のひと言である。


――あの悪魔たちを呼び寄せたのは自分自身だ。気づかぬうちに、男性を誘っていたのだ。だから、あんな目に遭った。


すべてが自業自得だという思いに、万里子は引き摺り込まれて行く。


(二度と卓巳さんの目を見たらダメ……)


卓巳の言葉は、そのひとつひとつが万里子の心を震わせた。
結婚式のあと、控え室でキスされたとき、万里子は本当に“幸せな花嫁”だった。

あのわずかな時間、卓巳に心から愛されていると思えたのだ。

だが、すべて勘違いだった。

万里子は自分の愚かな行動を反省する。
卓巳になら何を求められても大丈夫かもしれない。そんな思いで彼を見つめていた。
万里子の淫らな願いが卓巳に伝わり、キスさせたのだろう。
もうこれ以上、卓巳に軽蔑されたくない。万里子は必死で恋心を抑えた。


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