愛を教えて
万里子は今、大きなクリスマスツリーを飾りつけている最中だ。

千早家では十二月に入れば、ツリーを出して飾るのが習慣になっている。藤原家ならさぞかし立派なツリーがあるのだろう、と思っていた。
ところが、この家にツリーなどない、と言われ……。

それならば、と万里子が調達し、エントランスホールの正面、左右のオープン階段に挟まれた中央に、大きなクリスマスツリーを置くことにした。


「でも、こんな大きなものって初めて見ましたけどね。デパートに飾ってあるヤツですか?」


雪音は半ば呆れたように言う。

万里子にすれば、吹き抜けのだだっ広いエントランスホールに合わせると、このサイズになってしまっただけなのだが。


「ちょっと、大き過ぎたかしら?」

「いいんじゃないですか? 邪魔になるわけじゃないし、大きいだけで中身は空っぽの家だったから。万里子様がお嫁に来られて、家らしくなったって感じですね」


同じことを皐月にも言われた。 

卓巳に家という器ではなく、家庭を与えてくれてありがとう、と。

後ろめたさはあるものの、皐月が喜んでくれていることだけが、今の万里子にとって救いだ。


「玄関前の並木にも電飾を付けるんでしょう?」

「ええ。正門からエントランスまで、とっても綺麗な遊歩道があるのに、勿体ないと思って」


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