愛を教えて

(8)暴走

その夜、卓巳の帰りを待ち構えていたのは、万里子ではなかった。

戻るなり、皐月の部屋に呼び出される。そしてそこには万里子もいた。


「こんなことは言いたくなかったのですけれど。卓巳さん、妙な噂が聞こえてきていますよ。式からわずか半月で、新婚旅行もまだですのに、もう浮気の虫ですか?」


(なんで、こうなるんだ!?)


卓巳は頭を抱える心境だ。


「いえ……誤解です。おばあ様」

「誤解なら結構。でも万里子さん、あなたもきちんと言わなければ。黙っていては、殿方が付け上がるだけです。夫の起こす不祥事は、妻の責任と言われるのですから」


(不祥事だと? 中澤はいったい何をしでかしたんだ!)


宗の言葉を真に受けるのではなかった、と思いつつ、卓巳は黙っていた。


「ご心配をおかけして申し訳ありません。でも、私は卓巳さんを信じていますから」

「まあ、仲がよろしいこと……それが一番ですよ」


万里子はいつもどおり、皐月の前で完璧な妻を演じている。

宗の言葉を信じるなら、万里子にとって自分は「どちらでもよい相手」なのだ。

事実を突きつけられ、激しく落ち込む卓巳は最悪の手段を選んでしまう。


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