愛を教えて
――万里子を酷く怒らせてしまった。話も聞いてくれない。万里子の注意を引く方法はないか?


尋ねる卓巳に宗は答えた。

『女性が怒るのは信頼しているからです。心の底では愛されていると思うからこそ、確認のために怒るんですよ。相手の心が自分にないと思えば怖くて怒れませんし、どちらでもよい相手なら、そもそも怒りません』

自説を披露して、本当に卓巳が自分から離れていく不安を与えれば、なんらかのリアクションが見込めると言ったのである。 



卓巳は宗の言葉を信じ、朝美をはじめ秘書室の数人を日替わりで食事に誘った。
そして、宗を使って噂をばら撒き、大した用もないのに朝美を藤原邸へ使いにやったのだ。

宗曰く『あの性格なら、ひと騒動起こしてくれますよ』と請け負ったが。


万里子から『あなたがそんな人だとは思わなかった』と言われたら、答える言葉も決まっている。


『君にそう言って欲しくて、秘書を食事に誘った。でも、それだけだ。僕が愛しているのは君だけだ!』


今度こそ、ハッキリと『愛している』と告げて彼女の決断を待とう。



卓巳はまだ、気づいていなかった。
万里子を怒らせたのではなく、傷つけたのだということに――。


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