愛を教えて
(だったら……もう手遅れだわ)


万里子はそんなことを思いながらため息をついた。

どうやら父は妙な誤解をしてしまったらしい。

これまで、男性にはまるで興味を見せなかった世間知らずの娘が、大企業の社長相手にひと目で恋をしてしまった。そんな思いを利用され、弄ばれるのではないか、と。

そして万里子の深いため息は、父の誤解に拍車をかけてしまい……。


「母さんと約束したんだ。万里子のことは世界一幸せにする、と。将来、その気持ちを受け継いでくれる男にお前を託したい。そして世界一幸せな花嫁になり、幸せに満ちた家庭を築いて欲しい」

「……お父様……」

「お前が教師になりたいと言うなら反対はしない。結婚を急ぐ必要もない。孫は欲しいが、お前にはまだまだ私だけの娘でいて欲しいからな」


万里子は父の思いに胸が熱くなった。

父の優しさに責め立てられる気分になり、万里子は感情を殺して正面を向く。

対向車のライトが万里子の顔を照らし、眩しくて、静かに目を閉じた。


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