愛を教えて
「いいな。必ず断るんだぞ」


パーティの翌朝、父は何度も念を押して、八時に自宅を出た。
思えば、不況といわれ始めたここ数年、父は土日も出勤することが多くなった。月に休みは二、三日といったところか。それはやはり、経営状態の厳しさを表しているのかもしれない。

こんなに忙しいのだから、父の会社は大丈夫、と思っていた自分が恥ずかしい。


九時ちょうどに“氷のプリンス”藤原卓巳のBMWが、万里子の自宅前に停まった。

父の予想は外れた。本人を前に、急病なんて言い訳は通用しない。


ただ、昨夜の脅迫が悪夢ではなかったということに、本当に具合が悪くなりそうな万里子だった。



「ひとつ聞いてもいいですか? 昨夜のお話が事実だとしても、あなたが父の会社に融資をなさる理由がわかりません」


今度は助手席に乗るように言われ、万里子は仕方なく応じる。

車内の空気は重苦しく、息が詰まりそうだ。それを解消するため、万里子は思いついたことを口にしてみた。

脅迫によって万里子を言いなりにするなら、わざわざ億単位の金を融資する必要はない。それに、脅迫することに罪悪感を覚えるような良心の持ち主とも思えなかった。


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