愛を教えて
卓巳の返事がないのでチラッと見上げると、彼の瞳は万里子ではなく別の何かを見ていた。
しかも、真剣なまなざしで……。

そしていきなり、怒り始めたのだ。


「おい! あの、ツリーはなんだ!」

「えっ?」


家庭サイズからはみ出してはいるが、普通のクリスマスツリーである。雪音と一緒に、万里子が飾りつけた。天辺には天使が微笑みを湛えて見下ろしている。


(どうしたって言うの? 卓巳さんも喜んでくれたはずなのに……)


万里子には卓巳の怒る理由がわからない。
他のみんなも同じらしく、全員まじまじとツリーを見つめた。


――そのとき。

卓巳は素早く万里子の唇を奪った。

呆然と立ち尽くす万里子に、


「誰も見てない……だろ?」


そう言ってサッと離れて行く。


「いや、気のせいだ。すまない。では、行って来る」


晴れやかな顔で出勤する卓巳の背中を、首を傾げて見送る一同であった。

……万里子以外は。


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