愛を教えて
三十分後、宗が卓巳を迎えに来た。
彼は卓巳のエプロン姿を見て三十秒は固まっていた。

そんな秘書に「来るのが早過ぎる」と文句を言いつつ、卓巳は渋々スーツに着替える。



「あの程度でよかったのか? もう少しホイップしたほうが……」


卓巳はホイップの状態が気になるらしい。


「八分立てくらいでいいんです。デコレーション直前に角が立つくらいに仕上げますから。お帰りは早いんですよね?」

「ああ、夕方には戻る」

「じゃあ仕上げて、大きめのロウソクを三本用意して待ってますから」

「ああ……」


卓巳は何か言いたげに万里子を見つめていた。
彼の瞳は微妙な光を宿している。

それはここ数日で万里子が学んだ、キスをねだる卓巳の表情。

でもエントランスホールには、万里子以外に数人のメイドと執事の浮島がいる。扉のすぐ外には秘書の宗や、運転手も待っているのだ。


「卓巳さん、ダメです。皆さんがいるんですから」


万里子は鞄を渡しながら卓巳のそばで囁いた。


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