愛を教えて
万里子と和解する前の卓巳なら勘違いしたかもしれない。


――そこまでして息子の不始末を隠したいのか? 母親もグルだったのか、と。


「堕胎のことは結婚を申し込む前に知っていた。それでも私は万里子を妻にしたかった。聞きたいのは同意書にサインされた名前だ。このせいで、ずっと誤解していた。万里子は妻子ある君の息子と……」

「違いますっ! お嬢様はそんな不倫の罪を犯すような女性ではございません! お嬢様は……お嬢様は」


忍はリビングの床に膝をつき、泣き崩れた。

卓巳は忍を支えるとソファに座らせ、背中を擦って落ちつかせようとする。


「わかっている。その件は解決済みだ。万里子は、君の息子と誓って間違いは犯していないと言った。私はそれを信じてるし、その確認に来た訳じゃない」

「では……では、なんでございましょう。わたくしに何を」

「同意書に書かれた名前を聞いて、彼女は驚いていた。これは君の一存だね」

「はい……すべてわたくしの責任でございます。申し訳ございません」


忍はそう言うと両手を膝に置き、額が手の甲に付くまで深々と頭を下げた。


「いや、そうじゃない。式での様子を見る限り、彼はこのことを知らないはずだ。万一、この書類が公になれば、彼は仕事も家族も失いかねない。君はそれをわかってるのか?」


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