愛を教えて
卓巳はソファから下り、忍の横に膝をついた。

そして、テーブルの上に置かれた紙に手を伸ばす。それは、宗に命じて入手した同意書の原本。薄い紙をギュッと捻り、大理石の灰皿の上に翳した。
卓巳はライターを取り出し、火をつける。

一枚の紙は、あっという間に燃え上がった。


「万里子の夫は私だ。たとえ気休めでも、君の息子を彼女の人生に関わらせたくない」


――くだらない嫉妬だな。


そんな思いに卓巳は苦笑する。


「万里子の身体にはひとつの傷もない。彼女が失った子供は……私の子だ。罪は共に背負いたい。共に詫びて、ふたりで生きて行こうと思っている」


万里子の苦しみにすべての責任を感じ、ひとり息子の将来を脅かしてまで、文書偽造の罪を犯した忍。

罪の証は真っ黒に燃え尽き、灰となった。

この瞬間、忍が背負った十字架を、卓巳が引き受けたのだ。それ以上に、彼は万里子の十字架すら背負うつもりでいた。


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