愛を教えて
そこには、いつの間にか和子や孝司も来ていた。

しかし、誰ひとりとして太一郎を庇おうとはしない。
それも当然だ。若いメイドたちのほとんどが、卓巳の言葉どおりの仕打ちを太一郎から受けていたのだから。

仮に、太一郎が海外に留学したとでも言われたら……。
全員が十日も経たずに太一郎のことを忘れるだろう。二度と戻らなくても、悲しむ人間などひとりもいない。


太一郎は激しい痛みの中に“自業自得”の意味を知る。


「さあ、来るんだ」


最早、立って歩くこともままならない。

卓巳はそんな太一郎の襟首を掴み、渡り廊下のほうまで突き飛ばした。



口にできない言葉が太一郎の中をグルグル回る――。


人を殴ってはダメだと、誰も教えてはくれなかった。力尽くで人を思いどおりにする太一郎を、祖父に似ていると母は褒めてくれた。それが自分の価値だと、信じ続けた少年時代だった。

だが、いつまでも子供ではいられない。

太一郎もやがて、母の言葉が誤りで、暴力が間違った手段であることに気づき、同時に、無力な自分にも気づいたのである。


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