愛を教えて
「た、くみ、さん」


目を開けたら卓巳の顔があった。
溢れる涙が頬を伝い、万里子は縋りつくように卓巳に手を伸ばした。


「卓巳、さん……どうして助けてくれないの? 怖かったのに……キスはあなただけだったの。もう、何もなくなってしまったから……もう、だめなの。きれいじゃなくてごめんなさい。もう、いや……死なせて……卓巳さんに会えないから……だから」


万里子は錯乱していた。

胸の奥に抱えた不安が、ただ闇雲に口を衝いて出てくる。


太一郎にセーターを引き上げられたときに、胸を見られたこともショックだった。そのとき、わずかだが太一郎の指が肌に触れた。

そんなことを考えながら、万里子は可笑しくなった。

今更、胸ぐらいがどうだと言うのだろう。

それよりもっと恥ずかしい場所を、見知らぬ男たちに見られている。もっと醜猥な行為までして、癒えない傷を負ってしまった。男たちの体液は万里子の身体に染み込み、細胞まで侵されている。


幸福すぎた夜、万里子の不安は形となって、彼女の心に襲いかかった。

混濁した意識の中、絶望が万里子の心は埋め尽くしていく。


「私はもう……汚れきっている……」


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