愛を教えて
「あっ、お、奥様……はい、担当の者が扉の前までお運びしています。あまり召し上がりませんが」

「尚子叔母様はなんて?」

「太一郎……様はもうダメだ。卓巳様がすべてを相続されたら、自分たちはこの邸を追い出されるだろうと言われて、蓄財に走っておられるようです」


太一郎に敬称を付けたくなさそうな顔で悠里は答える。


「そんなこと。卓巳さんはそんな方ではありません。血の繋がった叔母様一家を追い出すだなんて!」


眉間にシワを寄せながら、必死で卓巳の情を口にする万里子に、ふたりは微妙な表情で目配せしている。


「失礼ながら、万里子様はご存じないからです。尚子様たちの卓巳様いじめは酷かったですもの」


美和子の言葉に万里子は思い出した。

正装のことで、尚子は卓巳に嘘をつき、恥を掻かせたりしたという話を。


「私は七年前に採用していただいたので、卓巳様がお戻りになったころから、色々目にしてきました。ですから、卓巳様が相続なさったら、裏にお住まいの皆様を追い出されると思っています」


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