愛を教えて

(2)暗転

卓巳がチャーター機を飛ばして舞い戻った翌日。

ふたりが新婚旅行へ出発する二日前に、その事件は起こった。


この日、万里子は都心に買い物に出ていた。

そして全くの偶然だが、同じ時間帯、太一郎も出かけていたのだ。

しばらく引きこもっていた太一郎だったが、最近ようやく出歩くようになった。だが以前のような外泊はせず、メイドを部屋に引き込むこともしない。食堂にも毎朝顔を出すようになり……。

何もかもがよくなり始めている。そう思った矢先のことだった。



きっかけは一枚の怪文書。

それは皐月の部屋をはじめとする、邸内のファクシミリが受信可能な電話すべてと、F総合企画や藤原本社、千早物産、千早家などにも送りつけられた。



「社長、お気づきのことと思われますが、念のために言わせていただきます。これは……合成写真ですよ」


宗は送られた怪文書を机に上に置き、じっと睨む卓巳に向かって言った。もし宗が最初に見つけていたら、可能な限り社長には見せず処分したであろう。

だが、第一秘書の朝美は嬉々として卓巳に差し出した。


『夫のイトコと寝る女』


書かれていたのはその文章だけだ。

あとは写真――。


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