愛を教えて
太一郎を一番理解していないのはこの母親だ。

祖父というフィルターを通さず、無条件で彼の存在を認めてくれる人間に巡り会いたいと願った。

それを母に求め、父に求め、この家に住む誰かに求めた。


期待に添うことのできない自分を持て余していたとき、突然、比べ物にならないほど優秀な従兄がやって来たのだ。

暴力行為で学校から呼び出されることは間々あったが、その暴力が女性に向かい始めたのは、卓巳が来てからである。


愛して欲しかった。

みんなに認めて欲しかった。

闇雲に手を出した邸のメイドたちは、太一郎の行為を責めながらも、全員が尚子から金を受け取ってしまう。

そして次からは自分で服を脱いだ。

それが“愛”だと、“愛”は買うものだと、母は息子に愛の値段を教えた。


だが、金で買った愛情に太一郎の心が満たされることはなく……。


『あなたはずるいわ。愛して欲しいなら、自分から愛するべきよ!』


万里子の言葉は太一郎の胸を矢のように貫いた。


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