愛を教えて
欲しがるだけで与えることなど考えたこともなかった。


太一郎に愛の存在を教えてくれたのは万里子だ。

万里子の愛は腕ずくでは奪えず、金でも買えなかった。


『ありがとう』


たったひと言、それだけで太一郎は涙が止まらなかった。

あの日、万里子と過ごした三十分間で、太一郎は生まれ変わることができたのだ。

人生の景色が百八十度入れ替わった瞬間。

それを写真に撮られ、利用されるとは。しかも、生まれて初めて心を震わせた女性を、こんなふうに傷つけるなんて。


太一郎は唾棄するように言う。

「とっとと死んでくれた分だけ、卓巳の親のほうがマシだな」

「なんですって! 親に向かってなんてことを」

「よく言うぜ。俺の命と安穏な生活と……天秤にかけた挙げ句、俺を捨てたくせによ」


さすがの尚子も気まずい表情を見せた。

だが、横を向くと、


「それはあなたが……あんな女に手を出すからでしょ。ええ、わかっているわ。あの女があなたに擦り寄ってきたのよね? レイプかどうかも怪しいものだわ。物欲しげに男を誘うような顔ですもの」


太一郎は母の中に万里子に対する嫉妬の感情を見つける。


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