愛を教えて
太一郎は耳に水が入ったのか、頭を傾げて片方を叩いていた。

坊主頭のため、濡れても張り付くような髪もなく、その点は便利そうだ。まだ水が残っている感触があるのだろう、太一郎は小指で耳をほじりながら顔を顰めつつ、万里子に話しかける。


「ちょうどよかった。なあ、万里子さん、こいつと別れて俺と結婚してよ」


太一郎からの唐突なプロポーズ。
それも、何がちょうどいいのか万里子にはさっぱりわからない。


「突然……何をおっしゃるんですか? 私はもう」


卓巳の妻だと言おうとして、左手薬指に結婚指輪がないことに気が付いた。

唇を噛む万里子に太一郎は、


「卓巳はいいってさ」

「え?」


万里子はビックリして卓巳を振り返る。

卓巳は雫を滴らせながら、それを拭おうともせず立っていた。


「君が望むなら……好きにしたらいい」


卓巳は万里子を見ずに答えた。


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