愛を教えて
点滴と休憩でだいぶ楽になり、卓巳はようやくパーティ会場に戻る。

零時前、カウントダウンまではもうしばらく時間があった。本社社長の身体を心配して、数人の幹部社員が寄ってくる。儀礼的な笑顔で応対しつつ、卓巳の目は万里子を探した。


そして万里子の姿を見つけた瞬間、卓巳の表情は凍りつく。

彼女のそばにはタキシード――英国風に呼ぶならディナージャケットを着たプラチナブロンドの男がいた。

日本人としては高身長の卓巳だが、その男は更に十センチ以上高い。万里子の見上げる仕草からも、太一郎より高いことがよくわかる。

男の瞳は水底を思わせるダークグレー、彼がライカー社の社長、サー・スティーブン・ライカーだった。


認可の内定はすでに受けていて、新年早々に正式調印となる予定だ。 
だが、気分屋で有名なライカーのこと。万一、彼のご機嫌を損ねでもしたら帳消しになる可能性も懸念される。

しかも、今回の内定に卓巳は若干の不安を覚えていた。


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