愛を教えて
「私、サーの言うとおりにしないといけないの? そうしないと、あなたが困るの?」


いつもと違う、どこか投げやりな卓巳の姿に、万里子は涙が浮かぶ。 


「何を馬鹿なことを」

「いやっ! 行きたくない、絶対にいや。でも、怖いの。無理矢理、連れて行かれそうで……怖い」


万里子は、どれだけ逃げても追い詰められ、ついには背後から伸びる手に捕らえられる恐怖に身震いした。逃げられないのかもしれない。それに、ライカーの目的が万里子なら、自分のせいで卓巳を巻き込んでしまう。


(どうしてこんなことに……やっと、結婚指輪が戻ってきたのに)


万里子は打ちのめされそうになる。


「大丈夫だ。君は僕が守る。奴には指一本触れさせない。絶対だ!」 


万里子をしっかりと抱き締め、卓巳は言った。

そのままふたりは見つめ合い……唇が近づく。アッサムの香りのするミルクティ味のキスを卓巳が堪能したころ、そこがまだ内廊下であることに気がついた。

ふたりは目を合わせて軽く笑う。

卓巳は万里子を抱き上げ、ベッドルームへと直行したのだった。


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