愛を教えて

(10)君は僕が守る

翌日、卓巳は不安がる万里子を気遣い、シティにある本社ビルに行くことをやめた。スイートに関係者を呼びつけ、そこから指揮を執る。

部屋に会社関係者が出入りすることになり、万里子はエキストラ・ベッドルームに移った。


だがそのせいで、万里子にもトラブルの解決が順調に進んでいないことがわかってしまう。

社長室兼会議室のようなシッティングルームから、たまに卓巳の怒鳴り声が聞こえた。仕事中の彼は、どんなときも声を荒げない、感情を表に出さない人間のはずだ。


もちろん、万里子と一緒にいる卓巳は激しい感情を露わにする。

あの契約書を交わしたときも、オーナーズ・スイートで卓巳とは怒鳴り合った。

怒ったり笑ったり泣いたり落ち込んだり、もちろん冷たい表情を見せることもある。でもそれ以上に、子供のように無邪気な表情も、ベッドの上で見せてくれる男の顔も、万里子にはすべてが愛しい。


ライカーは『タクミ以上のものを君に与えられる』と言った。

だが万里子にとって、卓巳以外から与えられるものに価値などない。

そのことに、一日でも早く気づいてくれるよう万里子は願った。


< 663 / 927 >

この作品をシェア

pagetop