愛を教えて
『スティーブンで構わないよ、マリコ。それと、嘘はやめてくれ。君はニューイヤーパーティでタクミと踊っていた。曲はワルツだ、プロのステップは要求しない。いや、君がプロに見えるように、私がリードしよう』


ライカーは掴んだ手を引き、万里子と共にフロアの中央に出る。そして、もう一方の手を腰に回そうとした。

そのとき、万里子はライカーの手を振り払った。


『サー、私は夫以外の男性に手を握られたくはありません。あなたが私の腰に手を触れたら、私は悲鳴を上げて大騒ぎし、あなたに恥を掻かせるでしょう』


両手を左右に広げ、ライカーは不思議そうに尋ねる。


『どうしたと言うんだ? 私は君の美しさを称え、ダンスに誘っただけだ』

『いいえ。こんな露出の多いドレスは、私にとって拷問です。あなたのしていることは、私の心を傷つけています』


万里子は一歩も引かない構えでライカーを睨みつける。

灰色の瞳が戸惑いに揺れた。遠慮がちに断られたことはあっても、拷問を与えている、などと言われたのは初めてだったのだろう。


『マリコ、君は何かと間違えているのではないかな? 私の耳に“拷問”と聞こえた。それはあまりに穏やかでない単語だ』

『間違えてなどおりません。私は……男性に傷つけられたことがあります。このような姿で華やかな場所に立つことは、私にとって大変な苦痛なのです』


どこまで口にするか万里子は迷った。

だが、ライカーは一方的に万里子に幻想を抱いている。それを公衆の面前で叩き壊し、更に恥を掻かせてやろう。ターゲットから外れることができるなら、たとえ怒りを買っても構わない。


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