愛を教えて
『サー・スティーブン、私はあなたに賞賛されるような女ではありません。ですが、お金や名誉、贈りものに心を奪われ、夫を捨てるような恥知らずでもありません! サー、私は夫以外とは踊れないし、踊りません。それがご不満なら、ドレスやアクセサリーだけでなく、すべてをお返しします。そしてこのまま日本に戻り、二度とこの国を訪れることはありません』


万里子はライカーから視線を逸らさず、毅然とした態度で彼のすべてを拒否した。


周囲は、女性に拒絶され、フロアの中央で身動きもしないライカーを遠巻きに見ている。『サーの誘いを断る女性がいるなんて』そんな囁きが万里子の耳にも届いた。


だが次の瞬間、ライカーは床に片膝をついたのだ。


『君を……怖がらせたことを謝りたい。私は待つ準備もできている。君が私の手を取ってダンスに応じてくれる日まで……。君に対する非礼をお詫びしたい』


今度は万里子が驚く番であった。

まさか、妻や身分が上の女性ならいざ知らず、一般人女性、しかも外国人に膝を折るなどあり得ないことだ。

絶句する万里子にライカーは続けた。


『だが、これだけは言わせて欲しい。君は今夜このフロアにいる誰より誇り高く美しい。その美しさは魂の輝きだ、君の魂を穢すことなど不可能だ。万里子、君は間違いなくアフロディーテに愛されているよ』


――ライカーは本気だ。

万里子はそれを知り、自らを蜘蛛の巣にかかった羽虫のように感じ始めていた。


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