愛を教えて
「卓巳さん! お話はどうなりました?」

「サーに進める意思がないのは明らかだ。こうなったら、他の手段を講じるしかないな」


だが、時間がない。
最初から卓巳の関わった計画なだけに、契約までは、と考えていたが……。


このとき、卓巳は内心動揺していた。

女性問題ほど卓巳にとって不案内で厄介なことはない。これまで、行動に出る度に過ちを犯してきた。

万里子とのこともそうだ。祖母の皐月に相続条件として結婚を示唆される前から、気になって密かに身元を確認した女性だった。

宗に詳細を調べさせ、中絶の過去を探り当てたときの衝撃は今でも覚えている。卓巳の人生に、一目惚れ、などあり得ない。結局、弱みを握り契約結婚という形で手に入れようとした愚か者だ。


(僕に、サーを笑う資格などない)


ジューディスが卓巳に仕返しをすることは容易に考えられた。

卓巳の調査で、彼女の背後にライカーの影はなかったはずだ。手を組んだ、いや、ジューディスを利用することを思いついたのはあのあとに違いない。

ザ・サンは英国のタブロイド紙だ。大衆紙と言われ、かなり下品な記事も載せる。トップレスの女性の写真も多く、日本の新聞紙よりスポーツ紙に近いイメージだ。

ジューディスを警戒してタブロイド紙にも手は回していたが、ライカーの影響力のほうが上ということだろう。

朝刊ならすぐに手を打てば金で止められる。だが、サーが絡んでいる。ギリギリのタイミングで教えたということは……。


(これも罠か?) 


不安そうな万里子を抱き寄せ、曖昧な笑みを浮かべることしかできない卓巳だった。


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