愛を教えて

(12)至福の夜

リッチモンドを出てすぐ、ホテルには連絡を入れておいた。


「卓巳さん、お疲れでしょう? お腹は空いてませんか? ルームサービスを……きゃ」


すでに暖められた室内に、万里子はホッとしてコートを脱いだ。そして、コートをポールハンガーにかけようとしたとき、卓巳に背後から抱き締められた。


「あっ、あの、卓巳さん……少しはゆっくりしてください。でなきゃ、また倒れたりしたら。お願い」


卓巳は万里子の耳からイヤリングを外し、床に叩きつける。

だが、それだけでは怒りが治まらなかったのだろう。

万里子の胸元に輝いてるダイヤモンドのネックレスを掴み、両手でチェーンを引き千切った。

留め金が歪み、弾け飛ぶ――卓巳は手の中に残った部分を握り締め、ゴミ箱に叩き込んだ。


「僕のいない間、奴に何をされた? キスされたのか? 君が望めば、奴はあの邸すら与えるだろう。本当は……この部屋に戻って来たくなかったんじゃないのか?」


卓巳の言葉に、万里子に対する怒りは感じない。卓巳自身に向けられた、焦り、嘆き、悲しみだった。


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