愛を教えて
痛烈な嫌味に、ライカーの暗灰色の瞳がぎらついた。

だが、すぐに余裕を取り戻し、


『ほう、それはそれは……愛し合っている新婚の妻を部屋から追い出し、金髪モデルをスイートに引っ張り込んだ男の台詞とは思えないな』


貴族ぶった仮面が剥がれ、その下に見えたのは、身分主義に陥った自己陶酔者の薄汚い本性だった。

卓巳の祖父もライカーのような思惑で祖母を妻にしたのだろう。表情の変わらない卓巳をどう思ったのか、ライカーは更に言い募る。


『明日の“ザ・サン”に、君のセックススキャンダルが掲載される。ミス・ジューディス・モーガンは君とのセックスを紙面で大告白してくれた。彼女は女優にもなれそうだ。これにより、禁欲的で厳粛な君のイメージは見事に壊れる。マリコは君を信じるかもしれない。だが、しこりは残るだろう』


ライカーは卓巳の反応を楽しむように、笑いながら顔を覗き込む。

だが、表情を変えたのは卓巳ではなくライカーのほうだった。


『……ああ、よくわかった。君とポーカーだけはしたくない』


数十秒の空白のあと、ライカーは諦めたような声を上げる。

“氷のプリンス”の呼び名どおり、全く表情を崩さない卓巳に、お手上げといったポーズだ。


『では、あなたとの勝負はポーカーに徹しよう。失礼する』
 

卓巳はライカーを置き去りにして万里子を探した。

だがパーティフロアに彼女はいない。少し考え、卓巳はパウダールームに向かう。中に入ろうとする女性に声をかけ、期待どおり、そこで万里子を捕まえた。


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