愛を教えて
セント・ジョンズ・ウッド、グローブエンド通りにそのアパートメントはあった。

ジェイクには別の命令をして、卓巳はジェームズの妻の妹名義という住所に向かう。リッツ・ロンドンからは北へ数キロの距離。しかし車で向かうとなると、道路は酷く混んでいた。

卓巳は途中でタクシーを降り、そのまま走った。



『早く、早くしろ! 余計な荷物は持ってくるな。ああ……そんなカードはいらん。私名義のものは、何も使えなくなってるはずだ。クソッ、あの日本人め』
 

男はボストンバッグを二個抱え、玄関のドアを開けた。悪態を吐きながら、若い妻を急かす。


『もうっ! 急なんだもの。あたしは、あとから行くわ。いいでしょ?』


赤毛の女が海外旅行用のトランクを引き摺りながら出てくる。だが、持って行きたい洋服やアクセサリーが入り切らなかったらしい。女のほうは緊張感がなく、足取りも重い。

『馬鹿を言うな! 誰のせいでこんな危ない橋を渡ったと思ってるんだ!』

『ちょっとぉ。人殺しとか、してないわよね?』


歳の離れた夫の鬼気迫る様子に、赤毛の若妻は引き気味だ。


『フン! 殺したりするもんか。だが、女房がいなくなって今頃慌ててるだろうよ。私の身辺を、金髪の小僧を使って探らせたりするからだ。さあ、この隙に逃げるんだ! ひとまずはストックホルムの友人に……』


『どこに逃げるんだって?』


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