愛を教えて
万里子はきつく目を閉じたまま何も反論しようとはしない。そんな万里子の様子を愉快そうに見つめ、ライカーは卓巳を見下すように言った。


『ご覧のとおりだ。彼女は私とのセックスが気に入ったらしい。君では物足りなかったんだろうね』
 
『言いたいことはそれだけか? では、妻を連れて失礼する』


卓巳は万里子に向かって一歩踏み出した。


そんな卓巳の悠然たる態度が気に障ったらしい。ライカーは上ずった声で更なる言いがかりをつけ始めた。


『彼女が私の愛人になることで、君の会社に認可を出したんだ。ここに留まらないと言うなら、契約書を返してもらおう。たった一度ベッドを共にしたぐらいで、数億ポンドの価値が君の妻の身体にあると思うのか?』


卓巳は無言で契約書をコートの内ポケットから取り出した。

微塵の未練も見せず、そのまま破り捨てる。


『これで文句はないな』


ふたつに裂かれた契約書は、ひらひらと床に舞い落ちた。


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