愛を教えて
『君はオーナーを裏切って私に報告するのか?』

『先ほどのオーナーの行動は、紳士以前ではないかと思われます』

『それは懸命な判断だ。君は再就職先に困ることはないだろう』


その言葉に、支配人以下全員の顔色が変わった。それはライカーからこのホテルも取り上げる、という宣言に等しい。

卓巳は万里子を抱いたままエレベーターに乗り込んだ。

支配人は慌ててロビーで待機する人間に、卓巳に失礼がないように、と指示したのだった。



卓巳が車を降りた同じ場所に、ジェイクは車を停めて待っていた。


『社長。奥様は……』


卓巳の腕の中にいる万里子に視線をやり、ジェイクは青くなっている。


『私がライカーを殺さなかったことを褒めてくれ。……車を出せ』


安堵感と後悔が一気に押し寄せ、卓巳の声は震えていた。


『リッツに戻りますか?』

『いや、行き先は――』


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